サラリーマンを退職すると、原則これまで入っていた健康保険組合等を脱退して国民健康保険に切り替えることになります。
実はこの国民健康保険には、保険料を一部免除できる減免制度があります。そこで今回は、セミリタイア後の国民健康保険料を最大限安くするために、知っておきたいお役立ち情報を紹介します。
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国民健康保険とは?
国民健康保険とは、病気やケガをしたときに医療費の窓口負担を3割以下にしてくれる公的医療保険制度です。
保険料を納めていないと窓口負担が10割になるので、高額な医療費を請求されてしまいます。
国民健康保険料の減免基準
国民健康保険料は、所得がゼロであったとしても全額免除されない仕組みになっています。
その代わりに減額制度が用意されており、世帯の前年所得にあわせて7割、5割、2割の減免が段階的に適用されます。所得ゼロでも全額免除にならないのは、国民年金と大きく異なる点ですね。
国民健康保険の減額基準(2019年度)
減額割合 | 世帯の前年所得 |
---|---|
7割 | 33万円以下 |
5割 | 33万円+(28万円×世帯人数)以下 |
2割 | 33万円+(51万円×世帯人数)以下 |
介護保険料は40歳以上になると保険料が発生します。39歳以下であれば介護保険料はゼロで、国民健康保険料のみとなります。
世帯人数ごとの前年所得目安
これら免除は条件を満たしていれば自動的に適用されるため、申請の必要はありません。確定申告で申請した所得をもとに計算されますので、セミリタイア後はどんなに所得が低くても、きちんと確定申告しておくことが大切になります。
また、青色申告に切り替えることで控除枠が大きくなって所得を低くすることができます。退職後に事業所得が少しでも発生する人は、青色申告にすると国民健康保険料を安くすることができるというわけです。
Check セミリタイアするなら個人事業主がお得!青色申告カンタン節税方法まとめ
申告不要は前年所得に含まれない
株の譲渡益や配当金を受け取っていても、確定申告せずに申告不要を選択すれば前年所得に含まれません。
その場合、株の譲渡益と配当金を除く世帯の前年所得が減免基準を満たしていると保険料は自動的に減免されます。
損益通算や外国税額控除などのために確定申告すると、前年所得に含まれて保険料が上がってしまう可能性があります。
国民健康保険に入っていないサラリーマンは前年所得が増えても社会保険料は上がらないので、気にしなくて大丈夫です。
白色申告の人は「⑨所得金額の合計」が前年所得になります。
青色申告の人は「㊺所得金額」が前年所得になります。
国民健康保険料の計算方法
住んでいる市区町村によって国民健康保険料・介護保険料の金額は変わります。全国共通で一律いくらと表記することができない仕組みになっているわけです。
国民健康保険料の内訳
上記3つに対して「所得割」、「均等割」、「平等割」、「資産割」がかかってきます。そして、それらを合計したものが国民健康保険料になります。
- 所得割:世帯所得に応じたかかる保険料
- 均等割:一人に対して均等にかかる保険料
- 平等割:世帯に対して平等にかかる保険料
- 資産割:世帯の固定資産税に対してかかる保険料
所得割は世帯所得が上がれば上がるほど高くなります。上限が決められていて、世帯所得が一定以上になるとそれ以上は上がりません。
均等割は人数に対して、平等割は世帯に対して一律でかかるものになります。所得ゼロでもこの2つがあるため、保険料がゼロにならないのです。
資産割については、廃止している自治体もあります。廃止自治体に住んでいれば、固定資産税があってもなくてもゼロになります。
前年所得ゼロのときの保険料
結局のところ、前年所得がゼロになると国民健康保険料が大体いくらになるか気になるところだと思います。そこで、全国のなかでも保険料が高い部類に入る広島市で試算してみたいと思います。
前年所得ゼロのときの国民健康保険料(広島市)
世帯 | 39歳以下 | 40歳~64歳 (介護分込み) |
---|---|---|
単身世帯 | 年額2万527円 | 年額2万5109円 |
家族世帯 | 年額4万268円 | 年額4万7435円 |
- 単身世帯:独身1人
- 家族世帯(39歳以下): 夫婦2人(39歳以下)+子ども(39歳以下 )
- 家族世帯(40歳~64歳):夫婦2人(40~64歳)+子ども(39歳以下)
国民健康保険料・介護保険料は自治体によって異なるものの、保険料が高い広島市でも単身世帯で年3万円以下となりました。
思った以上に安く感じた人が多いのではないでしょうか。前年所得ゼロによる7割減額が効いています。
前年所得ゼロだと国民年金保険料は全額免除申請をしてゼロにできます。つまり、すべての免除制度をフル活用することで「社会保険料の合計額=国民健康保険料+介護保険料」という図式を成り立たせることができるわけです。
Check 【国民年金の免除制度】配当収入がいくらあっても全額免除は可能です
したがって、セミリタイア後の社会保険料は単身世帯で年3万円以下、家族3人世帯で年5万円以下と考えることができます。
セミリタイアを目指す人にとって、社会保険料をここまで下げられる事実というのはかなり追い風になると思います。
退職したら利用できる減免制度
退職年度と退職翌年度それぞれで利用できる国民健康保険料の減免制度があります。
退職後に利用できる減免制度
- 退職年度:退職による保険料の減免制度
- 退職翌年度:所得減少による減免制度
退職による保険料の減免制度
自己都合退職であっても、正当な理由と判断される場合には保険料を大幅に減額できる制度があります。これは申請が必要な制度です。
対象者は雇用保険受給資格者証の離職理由欄に記載された番号が「11、12、21、22、23、31、32、33、34」のいずれかに該当する人になります。
対象期間は「退職した日の翌日~翌年の年度末」です。退職年度のみ有効な期間限定の減額制度になります。
この制度が適用されると、保険料算出に使われる前年所得を7割も減らすことができます。
自治体によって細かい計算が異なるので一概にいくら安くなるとは言えませんが、大きく保険料が下がることは間違いありません。
対象となる人にとって、かなりありがたい制度なので退職したら自分が対象者かどうか忘れず確認したいところです。
所得減少による減免制度
国民健康保険料は、1月~12月の前年所得をもとに4月~翌年3月の保険料が決定します。退職後の翌年は、サラリーマン時代の所得をもとに保険料が決定することになるため、年収が高ければ高いほど翌年度の保険料が高額になってしまいます。
そんなとき利用したいのが「所得減少による減免制度」です。具体的な対象基準は自治体によって異なりますが、大まかな目安としては次のようになっています。
- 今年度の世帯所得が前年度に比べ30%以上減少していること
- 今年度の世帯所得が250万円以下であること
サラリーマンを退職すれば大半の人がこれら条件を満たすので、利用しないと損な制度です。
「所得減少による減免制度」を利用するには事前の申請が必要になります。自治体によって申請の手続きが異なりますので、詳しくは市区町村などの担当窓口にお問い合わせください。
世帯所得が3割以上減少する見込みなら、制度が利用できるかどうかや申請の方法などについて事前に確認しておくといいでしょう。
任意継続すべきか否か
退職後2年間は、これまで入っていた健康保険組合や協会けんぽ等を任意継続することができます。任意継続するメリットは、扶養家族が何人いても保険料が変わらないところです。
したがって、扶養家族が多い人は任意継続した方がトータルで安くなる可能性が高いです。扶養家族の人数や年収などによっても異なりますので、どちらが得か電話で問い合わせて金額を調べておくと確実です。
夫婦共働きで、どちらか片方が退職する場合は、国民健康保険に入らず扶養家族に入るのが最も安い選択になります。
ただ、年収が一定以上だったり開業届を出していたりすると扶養家族になれないこともあるので、詳しい条件は該当する健康保険組合や協会けんぽ等に確認しておくといいでしょう。
ちなみに、私のような独身世帯でセミリタイア後の所得が82万円を超えなければ、2割以上の減免が適用されるので、任意継続しないほうが安くなることが多いです。
国民健康保険料の減免制度まとめ
時系列ごとに利用できる減免制度をまとめると、次のようになります。
- 退職年度:退職による保険料の減免制度
- 退職翌年度:所得の減少による減免制度
- 退職翌々年度以降:前年所得が一定以下だと適用される法定減額
退職後の国民健康保険料を最大限安くするためのポイントは、自分が住んでいる自治体に問い合わせて、申請できる減免制度がないかをあらかじめ確認しておくことです。
このページでは全国的に共通する減免制度を紹介しましたが、これら以外に独自の減免制度を導入している自治体もあります。
長期的に国民健康保険料を安くするコツは、世帯の前年所得を下げることです。実際の収入ではなく、社会保険料の計算に使われる所得を下げることが重要になります。
前年所得を下げるのに効果的なのが、開業届を出して青色申告に切り替える方法です。経費をもれなく計上して青色申告特別控除65万円を使えば、最終的な所得をかなり抑えることができます。
セミリタイアすると収入は不安定になり、経済的にも余裕がなくなります。減免制度をフル活用して、国民健康保険料の支払いを効率よく削減したいところです。
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