私は2015年から米国株投資を始めて、2020年に著書『バリュー投資家のための「米国株」データ分析』を出版するまでになりました。
しかし、書籍出版までの5年間、個別株で数々の失敗と遠回りを経験してきました。
株式投資を始めてみたものの、適切なリスク管理ができずに途中で大きな損失を出す人は非常に多いです。
リスクの取りすぎはマーケットの退場につながり、リスクの取らなさすぎは機会損失につながります。つまり、適切なリスク管理を実行できるかで最終的なリターンに大きな差が出るわけです。
そこで今回は、リスクを抑えながらインデックス指数以上のリターンが狙えるポートフォリオの作り方を解説します。
この記事を読むことで、平凡な個人投資家でも割安な優良米国株に分散投資する再現性の高い方法を学べます。
「優良米国株×バリュー投資」の成功に欠かせない具体的な運用ルールは、ETFや投資信託にも応用できる知識です。
この記事は、技術評論社から出ている著書の中身をブログ用に見やすく編集したものです。
出版社のご厚意で本の無料公開が実現しました。ぜひ最後までお読み下さい。
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正しい運用ルールが安定したパフォーマンスをもたらす
人はどうしても行動がブレやすい生き物です。株式市場全体が下げたときは「きっとまだ下がるかもしれないからもう少し様子を見よう」、好調なときは「もっと上がるかもしれないから乗り遅れないように早く買っておこう」と考えてしまいがちです。
こうしたことは誰もが多かれ少なかれ考えることで、自分を責める必要は全くありません。バリュー投資というのは、基本的に逆張りを繰り返すことでリターンを上げる投資法です。株価が不調なときに購入して、好調なときに売却することで利益を得ます。
だからこそ、一貫性を保ち続けるために正しいバリュー投資のルールを明確にしておくことが大切になります。最低限の枠組みをあらかじめ決めておくことで、一貫性のある運用を継続するためのサポートとして機能してくれます。
毎回の投資判断に頭を悩ませる必要がなくなり、投資にかかる時間と労力を削減するメリットも生まれます。
押さえておきたい運用ルール
優良米国株×バリュー投資を実践するうえで、最低限抑えておきたい運用ルールは下記の要素です。
運用ルール
- 投資対象を25年以上連続増配銘柄に絞る
- リスク資産:無リスク資産=90%:10%
- 12~18銘柄に均等分散投資する
- 異なるセクターの割安株にバランスよく投資する
- ポートフォリオのリバランスを定期的に行う
- 保有株の連続増配記録が途切れたら必ず売却する
配当きぞくん
ひとつずつ見ていくのじゃ。
投資対象を25年以上連続増配銘柄に絞る
平凡な個人投資家が優良株を正確に見極めるのは非常に困難です。そのため、過去の実績から優良株である可能性が極めて高い配当貴族もしくは配当チャンピオンに投資対象を絞ります。
25年以上連続増配中の銘柄だけに投資することで、リスクを抑えながら市場平均を上回るトータルリターンにも期待できるようになります。
Check 【優良株の探し方】普通の人でも優良銘柄が見分けられるシンプル法則
リスク資産:無リスク資産=90%:10%
ポートフォリオの運用資金は全財産を100%にするのではなく、生活防衛資金を差し引いたあとの金額で考えます。
生活防衛資金は急に収入が途絶えてしまっても生活に困らないように蓄えておく貯金のことです。6カ月~3年分の生活費が目安になります。
生活防衛資金は個々の状況や価値観によって金額が変わります。仕事の収入が安定していて独身だから6カ月分の生活費を生活防衛資金にするという考えも正解、家族がいるから3年分の生活費を見ておくというのも正解です。
配当きぞくん
個々のリスク許容度に合わせて適度な生活防衛資金を考えてみるのじゃ。
生活防衛資金が決まったら、次に運用資金(ポートフォリオ)の資産配分について考えます。世界一の投資家として知られるウォーレン・バフェットは家族への遺言として、現金の90%をVOO(リスク資産)に、残りの10%を短期米国債(無リスク資産)に振り分けるようアドバイスしています。
Check 世界一の投資家がおすすめする資産運用は初心者向けで非常にシンプル
無リスク資産に短期米国債が選択されているのは、長期的な期待リターンが現金よりも高く、値動きが安定しているためだと思われます。
世界一の投資家からのアドバイスは非常に説得力があるもので、忠実に再現するのが得策です。よって、運用資金(ポートフォリオ)の90%を株式(リスク資産)、10%を短期米国債(無リスク資産)で保有することとします。
- 株式(25年以上連続増配銘柄):短期米国債(VGSH)=90%:10%
リスク資産の株式は、これまで解説してきたように25年以上連続増配銘柄の割安株です。
短期米国債は、経費率0.07%の「バンガード短期米国債ETF(VGSH)」を購入します。VGSHを購入する理由は、日本の証券会社で購入できる短期米国債ETF のなかで経費率が業界最安水準であることと、流動性がしっかりしているためです。
この先VGSHより経費率が安くて流動性の高い短期米国債ETFが出てきたら、そちらに切り替えてもいいでしょう。
12~18銘柄に均等分散投資する
保有銘柄数が多いと管理が大変になる一方で、少なすぎるとパフォーマンスが運の要素に大きく左右されやすくなってしまいます。
「Investment Analysis and Portfolio Management」(Frank K. Reilly, Keith C. Brown著)によると、ポートフォリオの銘柄数を12~18銘柄にすることで分散投資のメリットが90%近く得られることが分かっています。
これはつまり、期待リターン通りの結果を得るには12~18銘柄のポートフォリオが最もコストパフォーマンスのいい銘柄数であることを意味します。そのため、運の要素を効率よく排除するために12~18銘柄の範囲で株式を保有することとします。
株式1銘柄あたりの比率は、配当貴族指数と同じようにすべて均等分散します。どの銘柄が上がって、どの銘柄が下がるか誰にも分からないためです。
- (運用資金×90%)÷12銘柄=7.5%
- (運用資金×90%)÷18銘柄=5%
12~18銘柄の株式が運用資金(ポートフォリオ)の90%を占めることになりますから、株式1銘柄につき5%~7.5%が基準になります。
配当きぞくん
あくまでも目安だから、厳密な均等にならなくてもOKなのじゃ。
異なるセクターの割安株にバランスよく投資する
銘柄を分散したとしても、同じセクターばかりに投資するのは好ましくありません。業界の規制変更、環境変化などにより似たような影響を受けるリスクが高まるためです。
米国株には11のセクターが存在します。どんな銘柄でも次のなかのどれかに必ず分類されます。
世界産業分類基準のセクター分類
不動産セクターにはリート(REIT)が分類されます。米国リートの個別銘柄は、外資系企業を除いて日本の証券会社では取り扱いがありません。
ETFや投資信託で米国リートの取り扱いがあるなか、米国リートの個別銘柄が取り扱われていない理由は、法律上の規制があるからと言われています。現行法令では金融庁の許可を取るのが難しいという事情があるようです。
そもそも不動産セクターのリートは、配当貴族指数に1銘柄しか含まれません。よって、リートがなくてもパフォーマンスへの影響は限りなくゼロに近いと考えられることから、不動産セクター以外の各セクターにバランスよく投資することとします。
不動産を除く各セクターから最も割安な銘柄を1銘柄ずつ購入すると10銘柄になります。残る2~8銘柄は、全セクターから割安度の高い順に購入します。このとき、同一セクターの銘柄はポートフォリオ全体で2銘柄以下になるよう配慮します。こうすることでセクターバランスのとれたポートフォリオが完成します。
- 各セクター1銘柄以上(リート除く)
- 同一セクターは最大2銘柄まで
ゼロからポートフォリオを完成させるときは、リスク許容度にあわせて購入ペースを考えましょう。短期間に多くの株式を購入すれば、それだけリスクが高まります。
購入ペースはリスク許容度に合わせて事前にルール化しておくことをおすすめします。たとえば12銘柄のポートフォリオをゼロから作るケースだと、株式を1銘柄購入するごとに7.5%現金比率が下がります。
ポートフォリオの完成には、毎月1銘柄の購入ペースだと1年、2カ月に1銘柄の購入ペースだと2年という時間がかかることになります。
- 25年以上連続増配銘柄からセクターごとに割安株を探す
- 割安度の高い銘柄から先に1銘柄5~7.5%の範囲で購入する
- 一定のペースで徐々に株式の割合を上げていく
保有株の連続増配記録が途切れたら必ず売却する
次の表はNed Davis Research社によって行われた過去データ(1972年1月31日~2018年12月31日)の集計結果です。配当方針ごとに4グループに分けて、リターンと標準偏差(リスク)を調査しています。市場平均(S&P500指数)も含めると、計5グループあります。
- 増配銘柄:12カ月以内に増配もしくは配当を開始した銘柄
- 配当維持:12カ月を超えて同一額の配当を継続した銘柄
- 減配銘柄:12カ月以内に減配もしくは無配転換した銘柄
- 無配銘柄:配当を出さない期間が12カ月を超える銘柄
グループ | リターン | 標準偏差 |
---|---|---|
増配銘柄 | +10.7% | 15.66% |
配当維持 | +7.47% | 17.76% |
減配銘柄 | -0.35% | 28.84% |
無配銘柄 | +2.61% | 24.46% |
S&P500指数 | +7.70% | 17.31% |
標準偏差はリスクのことで、リターンのばらつき具合を意味します。高くなればなるほど平均リターンとかけ離れた結果が出やすくなるため、低いほうが優れています。
安定したパフォーマンスを出し続けるには標準偏差を低くする必要があります。
増配銘柄は、全グループの中で最も高いリターンを得ながら標準偏差が最も低くなっています。リターンと標準偏差の両方でS&P500指数より優れている唯一のグループです。
一方、減配銘柄グループは全グループの中で最もリターンが低く、標準偏差もワーストです。しかもリターンにいたってはマイナスになってます。
配当維持、減配銘柄、無配銘柄はリターンと標準偏差の両方でS&P500指数より劣っていることから、保有株に減配銘柄もしくは連続増配が途切れた銘柄が出てきたときは無条件で必ず売却すべきことが分かります。
増配銘柄だけに投資することで標準偏差を抑えながらS&P500指数以上のリターンが期待できます。
- 減配されたとき
- 連続増配記録がストップしたとき
減配というのは年間配当が前年以下になったとき確定します。仮に四半期配当が下げられたとしても、残りの配当が増配されて年間配当が前年以上になるケースも稀にあります。実際このような事象がリーマンショックの前後で金融セクターの連続増配銘柄にありました。
連続増配記録のストップは、年間配当が2年連続で同額以下になったとき確定します。
四半期配当の減配が発表されても、基準となる年間配当が出揃うまでは正式な増配ストップにならないので、勘違いしないようにしましょう。
Check 連続増配株の条件とは?毎年増配しなくてもOKな理由を解説
ポートフォリオのリバランスを定期的に行う
購入時点で各銘柄のウェイトが均等でも、株価の上下動によって時間の経過とともにポートフォリオのバランスが崩れます。そのため、ポートフォリオが完成したあとも数カ月おきにリバランスが必要になります。
リバランス頻度は、配当貴族指数と同じ3カ月に1回(年4回)ペースが目安になります。保有する銘柄の株価が大きく動いて、ポートフォリオのバランスが崩れたときは不定期でリバランスするのも効果的です。
- 低ウェイト銘柄への配当再投資 or 現金投資
- 高ウェイト銘柄の売却と低ウェイト銘柄の購入
リバランスは受取配当金あるいは現金を使ってウェイトの低い銘柄を買い足す方法とウェイトが高くなった銘柄を一部売却してウェイトの低い銘柄を買い足す方法があります。
もし株式市場の暴落などで保有株全体の評価額が下がるようなときは、無リスク資産である短期米国債の比率が上がります。そのような状況になったときは、次のように短期米国債を一部売却して低ウェイトの株式を買い足すことでリバランスできます。
また、すでに18銘柄保有している状態で新しい割安株が出てくることもあると思います。そのようなときは、新規購入銘柄と同じセクターで最も割高な保有株を売却して新しい銘柄と入れ替えます。
こうすることでポートフォリオのリバランスが行いながら、バリュー投資の一貫性を保つことができます。割安なときに買い増し、割高なときに売却することになるので、長期的なリターンの底上げにつながります。
Check 均等加重平均には時価総額加重平均のリターンを上回るメリットがある
市場平均に勝つ運用ルールまとめ
ここまで市場平均をアウトパフォームするための運用ルールについて細かく解説してきました。
運用ルール
最低限これらルールを守っていれば、リスクを抑えつつ市場平均を上回ることに期待できます。
配当きぞくん
これらを参考にして、自分の目的に合わせた運用ルールを作ればいいわけじゃな。
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